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カーボカウウントで血糖管理に挑戦
せんぽ東京高輪病院栄養管理室長、管理栄養士

足立香代子

足立香代子
あだち・かよこ●中京短期大学家政科卒業。質の高い病院食の提供と、実践を重んじた栄養指導にあたる。臨床での功績により、社会保険学会賞・栄養改善学会賞・都知事賞・厚生労働大臣賞を受賞。『検査値に基づいた栄養指導』(チーム医療)など、栄養指導に関する著作が多数ある。


生活習慣病の代表格ともいえる糖尿病は、薬による治療にも増して、運動療法や食事療法が欠かせない病気です。 糖尿病の食事療法として、わが国では、日本糖尿病学会が推奨する「糖尿病食事療法のための食品交換表」に基づいて、一日の摂取エネルギー量(カロリー)を制限する方法が試みられてきました。食品を6群(六つの表)に分け、80kcalを1単位として総エネルギー量を計算し、食事内容を調整するやり方です。しかし、食品交換表が複雑で覚えにくい、食べたものすべてを数えるのは面倒、禁欲的なカロリー制限が苦痛などの理由で、長続きしないことも多いようです。 ところで、糖尿病において厳しい血糖管理が求められるのは、高血糖の持続がさまざまな重大な合併症を引き起こすためです。

特に、糖尿病は糖を分解するインスリンの分泌が不足したり、十分に働かなかったりする病気なので、健康な人に比べて、食後の血糖値の上昇が顕著です。 三大栄養素のうち、食後血糖に最も影響を与えるのは、糖への変換率が100%と高く、かつ極めて短時間で血糖に変換される「炭水化物(糖質)」です。そうした事実に着目し、欧米各国では10数年前から糖尿病の食事管理に炭水化物(=カルボハイドレート)の摂取量を調整する「カーボカウント」法が用いられています。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2010年版)」でも、低炭水化物食が低脂肪食に比べて体重もHbA1cも有意に低下させるとする試験結果(※註1)が引用されるなど、わが国でも徐々にカーボカウントの考えが広まりつつあります。

(註1) *『低炭水化物食、地中海食、低脂肪食による減量』N Engl J Med 2008;359:229-41

炭水化物を多く含む食品は、穀類や豆類、じゃがいも、里芋、かぼちゃなどの野菜(=表1)、果物(=表2)、牛乳、ヨーグルトなどの乳製品(=表3)の三つの群に分けることができます(表2)。食品交換表では80kcalを1単位とするのに対し、カーボカウントを用いた食事療法では、表1〜表3に該当する食品だけをカウントし、炭水化物15gで1単位(=カーボ)とします(米国式。ドイツでは10gが1カーボ)。 炭水化物は糖質と食物繊維に分けられますが、米国の糖尿病学会は、食物繊維を多く含む食品に関しては、炭水化物から除いてよいとしています。また、乳製品は乳糖だけでなく、タンパク質や脂肪が含まれているため、糖の吸収がゆっくりです。そこで、表1・表2については1単位あたりの炭水化物量を15g、表3の乳製品に関しては12gとして計算します。 一方、肉や魚、野菜などに含まれる炭水化物はわずかです。そのため、カーボカウント法では、表1〜3以外の食品については極めて寛容です。例えば野菜は摂れば摂るほど良い(1日400〜800gが目標)とされます。

食品交換表による食事療法のもう一つの問題は、太っていてもやせていても、一律に摂取エネルギー量を制限する点にあります。 カーボカウントは、やや血糖値が気になりだした境界域の人からインスリン療法を導入している人まで等しく適応できる考えです。標準体重あるいはやせ型であれば、炭水化物の調整のみ、太り気味の人であれば、カロリーも気にかけて食品を選んでいけばよいのです。 標準あるいはやせ気味の人は、一日にどれだけエネルギーを摂っていようとも、それがその人の運動量や筋肉量に必要な量なので、カロリーを制限する必要がありません。現在食べている量を把握した上で、主食の量を減らし、その代わりに、例えば糖の吸収を抑え、コレステロール値を下げるオレイン酸(オリーブオイルなど)を豊富に使った料理などで、満足度を高めることもできます。 一方、太り気味の人は、血糖管理に加え、これまでよりエネルギー摂取量を抑えて体重を減らす必要があります。炭水化物である果物や菓子などの間食、主食の穀物や芋、かぼちゃなどの順にその内容を見直し、好みに応じて調整していきます。このとき、「全部で何キロカロリー内に納める」という枠で捉えるのではなく、「これを止めれば何キロカロリー減る」と引き算方式で考えるのがコツです。

炭水化物という切り口で食事を眺めると、これまでと違った食生活が見えてくるはずです。 例えば、わが国の食生活指針「食事バランスガイド」では、主食の1単位(=1サービング)は炭水化物40gに当たります。これはご飯で80g(=おにぎり3分の2個)、食パンで8枚切2枚、切り餅では1・5個、クロワッサンで3個、ざるそばでは2分の1枚に相当します。 カーボカウントでは、何を食べれば炭水化物が少なくて済むか、あるいは同じ炭水化物の量なら、どれを食べれば納得できるかを考えます。すると、カロリー重視の食事療法では敬遠しがちだったクロワッサンは、魅力ある主食に変わります。しかも、クロワッサンだと朝食に1つで満足できるかもしれないので、朝で浮いた分(クロワッサン2個分)を昼か夜のご飯に上乗せできるわけです。

日本の食品交換表では炭水化物の比率を健常者同様60%前後に設定していますが、実際、それでは血糖コントロールが困難だといわれています。米国でも現在、食事全体に占める炭水化物の比率を45〜50%から40%にすることを検討中です。 それに倣うと、一日の指示カロリーが1600kcalの人であれば、640kcal相当、すなわち160gが炭水化物摂取量の目安と考えられます(炭水化物1g=4kcal)。これを単純にご飯に換算すると茶碗4杯弱です。実際は、芋や果物、乳製品にも当てなければならないので、主食(ご飯やパン、麺類)の量はこの60%程度が適当と考えられます。 表2の果物についてはどうでしょう。米国の基準では、指示カロリーが1600kcalの人は、果物をりんご換算で300g(1・5個)程度摂るようにとあります。これはアボカド大4〜5個に相当し、日本の基準が「りんご1個」であることを思うと、驚くほどの量です。 実は、果物に含まれる果糖は、インスリンを介さずに主に肝臓で代謝されるため、食後の血糖値にはほとんど影響しません。その証拠に、わが国でも血糖が上がりにくくなることを理由に、低血糖時に果物ジュースを摂らないよう指導しています。

菓子も炭水化物を多く含む食品です。でも、間食をしたら、その分穀物を減らして帳尻を合わせればいいのです。ただし、すべてを菓子に代えると、ビタミンやミネラルが不足してしまうので、菓子(間食)は200kcal以内に納めます。 炭水化物15g(=1カーボ)で食べられるのは、せんべいなら1枚、板チョコでは0・5枚、大福もちは3分の1弱、ピーナツなら77g(3分の2袋)です。カーボカウントでは、「どれを食べれば納得できるか」を考えるので、大福もちでなく板チョコに軍配が上がりそうです。ピーナツも食べ応えがありますが、肥満ぎみでカロリーも気をつけなければならない人は、小袋のものを買うなどの工夫で、食べ過ぎないことが大切です。 中性脂肪やγ‐GTP、尿酸値などに異常がなければ、アルコールも大丈夫です。なるべく炭水化物の少ない焼酎やウイスキー、ワインなどがおすすめです。ちなみに、炭水化物15g(1カーボ)相当の白ワインの量はボトル1本、赤はボトル1本半であり、これはご飯40g(茶碗3分の1程度)と同等です。しかもお酒を飲む人は、ご飯を最初にではなく最後に食べる「習性」があるので、血糖値は意外と上がらないのです。

自己免疫疾患である1型糖尿病、またはすでにインスリン注射を行っている人にとって、カーボカウントはインスリンの追加投与量の見積もりに大いに役立ちます。 例えば、炭水化物100gを含む食事をした際に、速効型インスリン5単位で食後2時間の血糖値がほぼ空腹時血糖値に戻っていたとします。この人は、炭水化物20gに対しインスリン1単位が必要だったとわかります(式A)。これを「インスリン・カーボ比」と呼びます。 インスリン・カーボ比は、実際の食事の様子から求める以外に、係数を用いて計算する方法があります。係数は速効型では450、超速効型では500を用います。例えば、超速効型インスリンを毎食5単位、就寝前に10単位打っているとしたら、20gの炭水化物に対して1単位のインスリンが要ることになります(式B)。 自分のインスリン・カーボ比がわかれば、夜食にあんぱん(=炭水化物49g)を食べるときに、2単位のインスリン注射の追加が必要だと簡単に計算でき、血糖管理が上手に行えます(式C)。 式A 100g(食事に含まれる炭水化物量)÷5(必要な速効型インスリンの単位数)=20g 20gの炭水化物の影響を相殺するために1単位のインスリンが必要 式B 500(「超速効型」の係数)÷25(1日に要した超速効型インスリンの単位数)=20 20gの炭水化物の影響を相殺するために1単位の超速効型インスリンが必要 式C 49g(あんぱんに含まれる炭水化物量)÷20(個人のインスリン・カーボ比)=2.45 低血糖を防ぐために、3単位ではなく少し控えめの2単位インスリンを打っておくことで血糖が管理できる

昨今、ライフスタイルも多様化していて、定時に食事を摂れる人ばかりではありません。食事と食事の間が長くなると、空腹からついつい食べ過ぎてしまいます。そこで、もし夕食が遅くなりそうなら、夕方4時〜5時くらいに間食をとることをすすめています。このとき、できるだけ炭水化物の少ないものを選ぶことは言うまでもありません。 食事の仕方にもカーボカウントの考えが生かせます。まず、ご飯茶碗を片手に食事をするのはやめます。そして、野菜から食べるように心がけます。血糖値の急激な上昇は、「野菜から食べる」「野菜と炭水化物を一緒に摂る」習慣づけである程度防ぐことが出来ます。 カロリー至上主義による食事療法がうまくいかない最大の理由は、総カロリーという枠にはめ、守れないと「だからダメなんだ」と否定するところにあります。守れるわけがないのなら、自己管理できる知識を提供すべきです。 個人の嗜好を尊重し、「納得」できる食べ方を追及するカーボカウント。あるいは「そんな甘いやり方で本当に血糖管理ができるの?」と感じるかもしれません。 しかし、食後高血糖にもっとも影響を与える炭水化物に着目したカーボカウントは、何より効率的で理にかなった血糖管理法といえます。 糖尿病の食事療法は継続できなければ意味がありません。もしも、今の方法がうまくいかないのなら、一度、カーボカウントに挑戦してみる価値はあるはずです。

朝はご飯よりパンがおすすめです。なかでも血糖値の上がりにくいクロワッサンがボリューム的にも納得がいくと思います。また、どうしてもごはんがいい場合には、朝120g、昼150g(茶碗小盛)、夜120〜180gの配分が理想的です。お酒を飲む人は、さらに主食を減らすと良いでしょうときどき主食を抜くとよいでしょう。 どうしても間食したい人には、炭水化物含有量が少なく、満足度の高いチョコレートがおすすめです。食べ過ぎない自信さえあれば、ピーナツなどのナッツ類でも構いません。 肥満がある人はカロリーにも気をつけなければなりません。炭水化物量は同じでも、例えば、アボカド3個は900kcal、バナナ1本は120kcalとエネルギー量には大きな開きがあります。しかし、常識的に考えれば、アボカドを3個も食べることはありません。カロリーを基準にすると、アボカド約半分とバナナ1本、おにぎり1個とクロワッサン小2個が同じであるなど、おもなものだけ覚えておくとよいでしょう。

※保健同人社「暮しと健康」2010年5月号より掲載

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